第1章 畏怖の念を抱かれし存在
「オーロラ姫様のご生誕、おめでとうございます。
そして、お招き頂きありがとうございます。
ささやかながら、私からも
心ばかりのお祝いの品を贈らせて頂きます」
群衆や主賓達は、妖精達の時とは違う意味で皆
息を飲んでいた。
マレウスの、黒くねじれた2本の角。そして2メートルを超える長身。尖った耳。
吸い込まれてしまいそうな闇を連想させる漆黒の衣装。
そして、冷酷な炎のような光を湛えた瞳…。
その全てが人々を、体の芯から怯えさせていた。
彼が、魔法石の付いた万年筆を構えると。
三人の妖精達はサッと身構えた。
きっと、マレウスがオーロラに危害でも加えると勘違いしての事だろう。
そんな彼女達を、リリアは冷めきった瞳で見つめていた。
そんな緊張感が張り詰める中、ついにマレウスはマジカルステッキを振った。
すると…
何も無かったはずの空間に、特大のガーゴイルが姿を現した。
途端に城内は阿鼻叫喚に包まれた。
ドラゴンの姿を模したそれを、本物と見間違えた婦人達は悲鳴を上げ、気を失い卒倒してしまう者もいたし。
一目散に出口に走っていく者もいた。
国王は思わず立ち上がり、咄嗟に我が子を抱いた王妃を庇った。
勿論、妖精達はとっくに臨戦態勢だ。
きょとんとするマレウスの隣で、リリアは額に手を当て俯いた。
事前に “コレ” を贈ると分かっていれば、彼を確実に止めたであろうに…。
「このガーゴイルは…」
リリアの気も知らないで、どや顔で自分の用意した贈り物について説明を始めるマレウス。
これが、どこでどうやって作られ、いかに材質にこだわり、洗練されたデザインであるのか熱く語る。
しかしどれだけ彼が、このガーゴイルが素晴らしい物だと伝えたところで。
人々の瞳には
鋭い牙と爪を自分達に向けた、恐怖のドラゴンとしか映らなかったのである。
全員が、呪いで石像に変えられたように固まっていた。
その場でたった1人。オーロラ姫を除いては。