第1章 畏怖の念を抱かれし存在
「最後は私ね!」
一番膨よかで、少し神経質そうな彼女はマリーウェザー。
ブルーのドレスを揺らしながら意気揚々と乳母車へ近付いた。
そして例の如く、ステッキをかざす。
「私からは…心…。“優しさ” をお贈りします。
貴女はこの後の人生を歩み、すくすくと成長していかれる事でしょう。
しかし、どれだけ齢を重ねようとも。その純粋で、無垢でお優しい心は絶対に穢れる事はありません。
人の喜びを共に喜び、人の悲しみを共に悲しめる
お優しい心を持ち続ける事でしょう…」
うっとりとして彼女の声に聞き惚れる群衆。
あまりに素敵な贈り物に息を飲んだ。
国王と王妃もまた、妖精達の心遣いに心の底から感謝した。
妖精達は自分達の役目を無事に終え、元いた場所へと戻る。
その際、マレウスとリリアにキツイ視線を投げ掛けた。
まるで彼等が、オーロラに危害を加えないか見張っているような素振りだ。
「?」
「…」はぁ
どうして自分が睨まれるのか分かっていないマレウス。
その鋭い視線の意味を正しく理解したリリア。彼は小さく息を吐いた。
兎にも角にも、次に名を呼ばれるのはマレウスだ。
「……え、えー…、我がディアソムニアいちの大魔法士であらせられます、
マレウス・ドラコニア様」
フィリップや、妖精達の名を呼んだ時よりも些か声に張りがない気がするが。
マレウスとリリアは共に国王に丁寧に頭を下げた。