第5章 ユニークなトランプ達は踊る
このテラスにも、ホールから吹き抜けてくるようにダンスメロディーが僅かに聞こえてくる。
その微かに聞こえる音楽に合わせて、2人きりで揺れていた。
オーロラが腰を反らすと、彼は優しい手つきでそれを支えた。
至近距離でフロイドを見つめるオーロラ。
いかにも質の良い、黒のジャケットに。襟には金の刺繍。
中に着込んだグレーのチョッキも、彼によく似合っている。
しかし、せっかく似合っているというのに…その着こなしは、あまりにも だらしが無い。
ジャケットもチョッキも、1つとしてボタンが留められてはいなかった。
シャツのボタンですら、留められているのは半分ほど。
こんな乱れた服装をしている彼だったが。
フロイドのダンスは驚くほどキッチリと型にはまった物だった。
さきほど彼女と踊った、
フィリップ、リドル、トレイの3人と比べても遜色がないほど。
『…フロイドが、こんなにダンスが踊れるのは、意外』
「褒められちゃった〜。お姫様と踊りたくて、覚えたんだぁ。
さっき」
『さっき!?』
聞くところによると、フロイドはここに来た時点では社交ダンスは素人同然だったらしい。
「元々ダンスは好きだし?
それにお姫様が色んな奴と踊ってるの見てたからね〜」
『…3.4回踊っているのを見て、覚えちゃったっていうの…?』
「真面目に勉強したオレ偉い」
褒めてくれ、と言わんばかりに胸を張ったフロイドを見て
オーロラは思わず吹き出す。
『っ、ふふ。あはは、うん!凄い。なかなかそんな事出来る人はいないわね、きっと』
「……」