第5章 ユニークなトランプ達は踊る
フロイドは、オーロラと向き合いながらも
自分の気持ちと向き合っていた。
今の彼は、人生で初めて味わう感情に戸惑っていた。
初めは暇つぶし程度に近付いたはずのオーロラに、特別な感情を抱き始めていた。
しかし、それを “恋” だと認識するにはフロイドはまだ幼過ぎる。
気が付いたら彼女の姿を探しているのも、どんな喧騒の中でも彼女の声だけを拾うのも、
全ては、気分屋である自分の気まぐれだと誤認識していた。
オーロラの手を握って、こんなにもムズムズした気持ちになるのも
きっと今だけだと、思い込んでいる。
オーロラも、フロイドと向き合いながら
自分の気持ちと向き合っていた。
本当は、今すぐにでも彼に確認するべきだと分かっていた。
“ この城を襲ったのは、貴方達? ”
“ ディアソムニアを手中に収める為に動いてるって、本当? ”
そう、問うべきなのだ。
しかしオーロラはそうはしなかった。
なぜなら、彼女はフロイドの事が嫌いではなかった。
むしろ友達として面白いとさえ感じていた。
フィリップに、彼等には心を許すなと言われていたのにも関わらず心を開きかけてしまっている自分に
腹立たしささえ覚えた。
しかし、それでも…
彼女は一国の姫。
国の情勢より、自分の気持ちを優先などしてはいけない。
それくらいは分かっていた。
『…ねぇ、フロイド。私…』
貴方に聞きたい事があるの。
そう言葉を続けようとしたのだが、フロイドがそれを遮った。
「ねぇ…お姫様。
オレと、逃げる?」
『え?』
自分の手を握る、フロイドの手に力がこもる。
そして、いつものルーズな喋り方はどこへやら。
オーロラは、こんなにも真面目で真剣なフロイドは初めて見た。
しかし、彼の言葉の意味がどうしても理解出来なくて。
軽やかに踏まれていたダンスのステップも、思わず止まる。
“ どうして私が、貴方と逃げるの? ”
そう口を開こうとした瞬間。
ついにやってきてしまったのだ。
その、瞬間が。