第1章 畏怖の念を抱かれし存在
王子様との対面を終えた彼女を、次に祝ってくれる人物は…
「妖精の国よりお越しの…
フローラ様、フォーナ様、メリーウェザー様!」
再び大臣が、無駄に大きな声で主賓の名を叫ぶ。
名を呼ばれると同時に、足早に国王と王妃に挨拶を済ませる三人。
そして我先にと乳母車へと駆け寄った。
口々に、可愛い・玉のよう・愛らしいと述べる。
ひとしきり彼女を愛で終わると、思い出したように三人は国王の方に歩み寄る。
そして、代表してフローラが口を開いた。
「国王様、王妃様。
この度は、本当におめでとうございます。
心からお祝いを申し上げます。
そして僭越ではありますが
この可愛らしいお姫様に、私達から一つずつ贈り物をさせて頂きたいのです」
この申し出に、国王は大層喜んだ。
「それは素晴らしい!ぜひ、我が娘に送ってやって欲しい」
王妃もフローラに微笑みかけ、国王に同意した。
いかにも妖精らしいピンク色のドレスに身を包み、少し気の強そうなフローラ。小さな羽をパタつかせながら、再びオーロラの前に躍り出る。
そして黄金色に輝くステッキを器用にクルクルと操り、まじないの言の葉を並べ始めた。
「可愛い可愛いオーロラ姫様…。
私からの贈り物は “美しさ” です。
貴女が16になる頃には、その髪は艶やかな栗色に輝いて。
唇は、薔薇が嫉妬するくらいに赤く染まる事でしょう」
彼女のステッキからは、粒になった光が溢れ出し
乳母車の中のオーロラへと舞い降りていった。
あまりにも美しく、素敵な贈り物に。
見守っていた人達からは熱いため息がこぼれるのだった。
「次は私ね」
そう言ったのは、ミドリ色のドレスのフォーナ。人当たりの良さそうな、おっとりとした口調だ。
そんな彼女も、フローラに習って儀式を始める。
「オーロラ様…。私からは “美しい歌声” を送ります。
貴女がその美しい声で歌えば、ひとたび人々は魅了される事でしょう。
人だけではなく、動物や、植物までもが貴女の虜となるでしょう…」
フォーナの言葉が終わると、ステッキから溢れた星屑のようなキラキラが、オーロラの上に降り注いだ。