第26章 眠り姫の物語
「ぅ、ぐっぅ……ふぐっ、ぅうーっ」
「……セベク。いつになったら、お前の涙は枯れるんだ?」
「しょうのない奴じゃの。そんなにマレウスの結婚がショックか?」
ローズとマレウスが 幸せそうに踊るのを眺めているのは、リリアとシルバー、そしてセベクの3人。
「そうじゃなくて…っ、僕は…嬉しくてっ!
若様のあんな幸せそうな、御顔は…初めてっ、見たものですから…!」
「!そうか…。そうか、セベク。お主のそれは、嬉し涙か」
「若様の幸せは、僕の、幸せ…!
ぐす…っ。人間の娘を愛していると知った時は、どんな手を使ってでも、止めようと思ったのですが…。
良かった…。2人が結ばれて、良かったです。
自分は、長く若様に仕えて来たのに、知らなかったんです。
マレウス様が、あんなに お優しい表情をなさると!
願わくば…寿命という運命が2人を引き裂くその時まで、どうか あの幸せが続けば良いと、祈らずにはいられません!!」
涙と鼻水で 顔をぐしゅぐしゅにしたセベクは、強い瞳で2人を見つめた。
「親父殿は、あの2人が 幸せになれると思いますか?
妖精族と人間が一緒になって…、その後、残される妖精族は…本当に幸せだったと 思えるものなのでしょうか」
「そんな事は、わしにも分からん」
「…そう、ですよね。申し訳ございませ」
「ただ、分かる事もある。
ほれ、あの2人を見ておればお主にも分かるじゃろ?
未来の事は誰にも分からんが、今の2人は…間違いなく、この世界で一番の幸せを手にしておるよ」
これは余談であるが。
この3人は後に 城の近衛兵として、ここへ移り住む事となる。
ローズに剣を教えるリリア。城の中庭でうたた寝をするシルバー。
そしてセベクは…。
相変わらず、ふらりと居なくなるマレウスを “ 若様ー! ” と大声で捜索する。それに加えて “ 姫様ー! ” と探し叫ぶ声も、城中に響かせる事となる。
ローズとマレウスが、セベクから逃げ回るところが頻繁に見受けられるようになるのは、言うまでもない。
ただそれは、もう少しだけ 未来の話。