第26章 眠り姫の物語
「…美味そうだな」
「珍しいッスねぇ。アンタが他国の料理を褒めるなんざ。こんなの、食べ慣れてるでしょうに」
「いや、俺が美味そうって言ってんのは…今、あそこで踊ってる女だ」
「……もう人のッスよ」
「あ?人のものは奪うなって法なんかねぇだろ」
「ありますよ!常識でしょうが!!
はぁ…これだから、王族ってやつが嫌いなんスよオレは。いや、ワガママの域を超えてて、逆に清々しいスかね。
あぁ、ちょっ!その皿下げないで!残ってる奴まだ食うんで!」
他国の姫を、ギラついた目で見つめる獣人。そして、料理に夢中になる彼もまた、耳と尻尾を所有していた。
かなりの異彩を放っているが、それは彼らに限った話ではない。
壁際で三角座りを決め込み、小さくなっている男にもまた、同じ事が言える。
「兄さん…。兄さん」
「………」
「兄さん、凄く目立っているよ?」
「話しかけないで。僕はいま 全身全霊で、石になりきってるところだから。
僕はただの小石。僕はただの小石…」ぶつぶつ
「こんな立派なお城のホールに、こんな大きな石が落ちている確率は、0.26%くらいだよ」
「うぐ……」
「でも、兄さんがこういう社交の場に出て来れた事自体、奇跡に近いよね!」
「し、仕方ないだろ?ここに来ないと、僕が集めた各国のボードゲームを全部燃やされるって言われたんだから。
そんなの、死の宣告と変わらない!召される召される。昇天不可避」
「要するに、自国王様に脅されたんだね」
「そうだ!もういっそ、ステルスゲーだと思って乗り切ってしまえば…」ぶつぶつ
燃ゆるような青い髪の兄弟は、なんとか その場をやり過ごそうと試みていた。