第26章 眠り姫の物語
「うぅ、フィリップ…お前は、なんて立派な奴なんだ!」
涙ぐみ、盛大に自分を抱き締めてくる父。
「この国を救ってくれた事、心から礼を言おう」
同盟国の王から贈られる、熱い感謝の言葉。
そして、謎に沸き起こるフィリップコールと拍手の雨。
何が何だか訳がわからない彼は、当然 アズールに説明を求めた。
「…おいアズール。これは一体何ごと」
「あぁフィリップ王子!僕は、貴方の勇姿が目に焼き付いて離れませんよ!」
「…何言ってんだ。ふざけん」
「それどころか!!愛し合う2人の為に、自らの想いを殺して身を引くなんて…!そうそう出来る事ではありません!」
「は?なんだ?それはどういう」
「貴方のようなお方にお仕え出来る僕は、とても幸せ者だ!」
「…………」
どんな言葉を発しても、全てアズールに上から掻き消されてしまう。
彼は経験上、理解していた。こうなったアズールは、人の話なんか聞きやしないのだ。
既にそれを悟っている彼は、すぐさま話しかける標的を変えようと試みる。そして、ホール中央へと視線を向ける。
なんとそこには…眠りについたはずの、愛しい人の姿があった。
「っ!!」
すぐにでも、名前を呼び、駆け寄って、そしてこの腕で抱き締めて…。
しかし、彼が頭の中で思い浮かべたその行動は、どれひとつとして実行される事はなかった。
フィリップは、すぐに 理解してしまったのだ。ローズが自分に向ける、キラキラとした視線を見て。
…彼女が、自分に何を望んでいるのかを。
『……フィリップ…』
(お願い、話を合わせて)
「……はぁ」
彼は、小さな溜息をついた。
そして、諦めたように目を瞑り 口を開く。
(分かったよ。分かったから…んな目で見るな)
「…全部、アズールの言う通りだ」
フィリップがそう告げると、ホールはさらなる熱狂に包まれた。
そして、その中でアズールは静かにほくそ笑むのだった。