第26章 眠り姫の物語
驚くべきは、アズールの信頼度の高さ。きっと彼以外の人間が、同じ内容を述べたとて、こうは上手く行かなかっただろう。
それほどまでに、民衆と王族から絶大な信頼を得ているのだ。
「ですが皆様、どうかご安心下さい!もう何も恐れる事はありません。
さきほど私がお話しした化け物は…もう既に “ あるお方 ” によって、既に討伐されているのですから!」
アズールは、さらに声を張り上げて高らかに宣言した。すると、安堵の声がそこかしこから漏れ聞こえてくるのであった。
そこから話はどんどん、アズールの思惑通りの方向へと転がっていく。
「な、なんとそんな恐ろしい化け物に立ち向かった者がいるのか!」
「一体誰なんだアズール!その勇敢な英雄は!」
「包み隠さず申し上げます。その、悪者を討伐なさったお方こそ…」
と、その時。1人の男が、大階段を降りてきた。
そう。姿を現したその男は…フィリップであった。計ったかのようなタイミングで現れた人物に、全員の視線が集まる。
アズールは、顎を引いてニヤリと小さくほくそ笑んだ後、大きく両手を広げた。そして今までで1番 大きな声で言い切った。
「そうです!我らがフィリップ王子様!彼こそが、この国を救った英雄なのです!」
アズールが言い終わるのと同時に、大ホールは割れんばかりの喝采に包まれる。
一瞬にしてこの場は、お祝いムードと化した。
……フィリップだけを、置き去りにして。