第26章 眠り姫の物語
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アズールはもはや、この国でも有名人であった。同盟国であるオクタヴィネルの敏腕宰相として、ここディアソムニアでも名を売っていたのだ。
従って、彼がこの場で進言をしたとしても、誰も違和感を抱かない。
まさか、そんな彼が…。件の黒幕本人であるなど、疑う余地は無かったのである。
一体どう話を纏めるのかと ハラハラとするローズを尻目に、アズールは2人の国王の前で論じ始めた。
「まずは、王女様の御身がご無事だったこと。私も、心から安心致しました!大事がなくて、本当に良かったですね」
『え、あ、ありがとう』
「さて、問題の悪党の話に戻しますが…。
マレウスさんと王族を憎しみ合わせ、姫に呪いをもたらす事となった諸悪の根源。その族を、私はこの目でしっかりと確認しております!」
「さ、さすが我が国の優秀な宰相!して、その族の詳細は!?
えぇい!勿体ぶらんと早く申せ!」
興奮するヒューバート。身体を前のめりにさせてアズールの言葉を待つステファン。
周りにいる全ての人も、息を殺して耳をすませた。
「その族は…なんと…
全長3メートル。そして6本の牙を持ち、4つ目があり、背中には2対の翼。肌の色は緑色で身体中が鱗に覆われており、ヒョウ柄の尻尾がある怪物だったのです!!」
長い長い沈黙の後、ローズは我慢出来ずに吹き出した。
『っぷ、…!』
「笑い事ではありませんよ?その化け物が、人間の姿に変身して、ここディアソムニアを内部から崩壊させようと目論んでいたのですからね」
デタラメにも程がある。彼女は笑いを堪え切れなかったのだ。
しかし、そんなローズと周りの温度差は、大きなものだった。
「な、なんと恐ろしい…」
「そんな化け物が、この世に存在していたなんて!」
騒めく群衆を見て、マレウスは小声でローズに嘆く。
「…この国で暮らす人の子らは、少々人が良すぎるな」
『私も、そう思う』私がしっかりしなくちゃ!