第26章 眠り姫の物語
『いや、マレウス?明け渡せって、そんな言い方は…
貴方まさか、腕尽くで奪うつもりじゃ…!待って、私は貴方に剣を望んではいないわよ!?』
「腕尽く?奪う?まさか。
僕の姫は随分と物騒な考え方をしているのだな」
『貴方に言われたくないわよ』
「僕はあくまでも穏便に、話し合いに応じて欲しいと懇願するだけなのだが?
まあ 応じて貰えない場合は、国民全員を人質にでもとってみるとするか」
『穏便とは…!』
2人のやりとりを見守っていく中で、国民達の概念は徐々に変わりつつあった。
マレウスの雰囲気が、明らかに今までとは異なっている事に、ほとんどの人間が気付き始めていた。
元々、謎に包まれていた存在だったマレウス。出回っていた情報といえば、強く、そして冷酷で非情な妖精族だという事くらいだ。
しかしそんな面影、今の彼からは一切感じられなかった。
マレウスと、姫に呪いを掛けた人物。それらが同一人物である事を疑ってしまうくらいには、今の彼は過去と違っている。
そして、言うまでもなくマレウスを変えたのはローズであった。冷え切って、壊れかけていた彼の心を温かな光で包み込み、癒した。
一時は 恨みと憎悪に取り憑かれ、非道へ走らんとしていたマレウス。そんな彼を、ローズが優しく手を引いて 正しい方向へと導いたのだ。
そんな2人を見ていると、不思議な事に周囲にそれが伝わった。
そして、さらに皆が理解した。
あぁ。この2人は心から、互いを愛しているのだ。
と。