第26章 眠り姫の物語
『盾や剣は、なんとなく分かるけれど。船というのは?』
「お前を乗せて、どこへでも運んでみせよう。
なんなら、誰も知らない遠い遠い地の果てまで、ローズを攫ってしまおうか」
“ 攫う ” という不穏なワードに、周りにいた者達の空気がさらにヒリついた。
しかし、ローズだけはクスクスと楽しそうな声を零す。それがマレウスなりの冗談だと、彼女だけには分かっていたのだ。
『ふふふっ。そこで私達2人、幸せに暮らすのね』
「あぁ。悪くないだろう?」
『うん。それもきっと楽しくて幸せだと思う。でも…ごめんなさい。私はそれを望まない。
私達2人だけの幸せじゃ、私は満足出来ないから』
「ふむ。やはり僕の姫は強欲だな。盾も剣も、船も望まないと言う。
ならば今一度問おうか。
ローズ。お前は、僕に何を望む?」
『答えならもう、決まってる。
マレウス。私が貴方に望むのは、ただひとつ。
この国の王座に、貴方が就くことよ』
ローズのこの言葉を噛み締めるように受けた後、マレウスはステファン王の前へ進んだ。
そして、相変わらず苦い顔をしている王に言う。
「そういう訳なのでな。
僕の、愛しい者の頼みなのだ。その王座、明け渡してもらうぞ」
そう言った彼の笑みは、悪役さながらであった。