第26章 眠り姫の物語
裏デュースが降臨しているなど気付けるはずもなく、ローズとマレウスのやり取りは続いている。
マレウスは自分の手が傷むのも厭わないで、ナイフを掴み続けていた。対してローズは、なんとかして彼の自傷ともいえる行為を止めようと足掻いてみるが、無駄であった。
彼女が力を入れれば入れるほど、マレウスがナイフを握る手にも力が込められた。
堪らず、ローズは諦めたようにそれを手放す。
ゆっくりとナイフから力を抜くと、マレウスも ようやく手を離すのだった。
カラン という冷たい音と共に、鈍色に光るナイフは床に落ちた。
『どうして、邪魔をするのマレウス…。
私は…私達の未来の為に戦っているのに!!』
「お前の言う戦いとやらが、自らに刃を向けるものならば…
僕は、そんなもの望まない。
そこまでして、周りに認められたいとは思わないな」
予想もしていなかった冷たい言葉に、ローズはドキリとした。
そんな彼女の様子を見ても、マレウスは話すのをやめなかった。ゆっくりと本心を語る。
「さきほど、ローズは僕に言ってくれたな。
貴重な残りの人生は、僕と共に歩んでくれると。
共に歩もうと約束したばかりなのに、どうしてそうも1人で先走る…。
僕だけを置いていかれては困るのだが。
それに…自分を盾になどするくらいなら、この僕が お前の盾になろう。
もしも 盾では無く剣を望むなら、僕がお前の剣になろう。
なんなら、船にでもなってやるぞ?」
マレウスは自信満々で言い放った。