第26章 眠り姫の物語
「もうやめろ」
冷たい声で言い放ったのは、マレウスである。
ローズは、隣に立つ男には目を向けずに 沈着な様子で返答する。
『もう少し黙って待ってて。これは、私と貴方の未来に必要な』
ローズが言い終わる前に、マレウスは彼女の持つシルバーナイフへと手を伸ばした。
彼がそれに手を触れるか触れないか、その刹那にローズは叫ぶ。
『マレウス!!』
途端に、マレウスの手からは黒煙が上がる。
ブスブスと、肉が焼けるような音と共に…
それを見た ほとんどの人間が、目を剥き悲鳴を飲んだ。
純銀に反応し、その身が焼けてしまうなど…まるで御伽噺の吸血鬼のようだと。人々は、思い出したかのように恐怖した。
「ひ、ひぃっ、やっぱり、あいつは化け物だ!!我らの姫を騙くらかして、この国を掌握しようとしてるのかもしれない…!」
「ここに居たら、私達も無事では無いかも知れないわっ、恐ろしい…っ」
「顔を覚えられないうちに逃げた方がっ」
多くの人々が取り乱し、幾人かの町人は その場から逃げ出そうと試みた。出入り口に1番近い人物が、扉を開く。
外の景色が、薄く開かれた扉から覗いたその瞬間…。
バァアン!!という音と物に、無情にもこの場は再び密室となった。
扉に手を掛けていた者は、視界の端に何かを捉え、恐る恐るそちらを確認する。そこには…
何故か、足 があった。
「おいおいおい。お前ら、なに逃げ出そうとしてんだよ…ア゛ァコラ!」
扉を閉めたのは、何とデュースの足であった。
彼はこめかみに青筋を浮かべて、プッツンした様子で捲し立てる。
「テメェらの国のお姫様が、体張って戦ってんだろが!それを見ないで何処行くってんだ、このタコ野郎!!
最後までキッチリ見届けてから消えやがれ!」
たまに現れる裏デュースを見て、リドルとトレイは呟く。
「うん、まぁ言いたい事は分かるぞ」口悪いけど
「…おっしゃる事は正論だね」口は悪いけどね