第26章 眠り姫の物語
困惑し 固まる二親の代わりに、ヒューバート王が発言する。彼にしては珍しく、わなわなと声を震わせて。
「ば、馬鹿な事はやめてくれ…それに、姫には…息子が…フィリップがいるではないか」
『!』
彼女は、この時に初めてフィリップと自分の婚姻関係が継続されていたのだと知った。
まさか大国の王子が、死の呪いを受けた自分を何年間も待ち続けていたなどと、どうして考えられようか。
しかし その事実を知ったからといって、ローズの頭の中には 後戻りという選択肢は無い。
彼女はマレウスを愛し、共に歩いていくと心に決めていたのだから。
『…ごめんなさい』
ローズの言葉を受け、ついにヒューバート王も心が折れてしまった。へなへなとその場に尻餅をついて消沈してしまう。
自分がした選択で、また人を傷付けてしまった。心が痛まないわけではなかったが、しかし立ち止まるわけにはいかない。
ローズは改めて両親を見据え、そして告げる。
『今すぐ、決めて。
私達の話を聞くのか、それとも…
私の頬が裂けるのを見ているのか』
「駄目だ、もうボクはこれ以上見ていられない」
我慢を重ねていたリドルだったが、ついにそれも限界だったらしい。
自分を盾にするようなやり方を選んだ彼女を、止めに行く為に一歩を踏み出した。
彼も、マレウスとローズと共に、王へと直訴に出るつもりだった。
しかし…そんなリドルの腕を、トレイが素早く掴んだ。
「もう少し待ってくれリドル。まだ様子を見よう。おそらくだが…大丈夫だから」
トレイは、一部始終を冷静に観察して言った。
そんな彼の目に写っていたのは、ローズの姿ではなく、その隣に立つマレウスなのであった…。