第26章 眠り姫の物語
ローズが喉元に刃を持っていく瞬間、彼女の前に飛び出してしまいそうになる体を ぐっと押さえ込んだフロイド。
脊髄反射でローズを守ろうとしてしまうのは、どうやら昔から変わっていないらしい。
彼は、過去にガラス片から彼女を庇った時の事を思い出して呟いた。
「ほんとさぁ、ああいうとこムチャクチャだよねぇ。
ふつう一国の姫が、自分を盾に交渉したりする?」
「まぁしないですよね。普通は」
「ふふ。もう少し見守ろうではありませんか」
アズールは にやりと笑って、眼鏡のブリッヂを持ち上げた。
『下がりなさい』
「っ、…!」
『早く下がりなさい!』
ローズは、マレウスと自分の前にズラリと並んだ衛兵に向かって叫びつけた。
彼女の喉に、今にも食い込まんとしているナイフ。それを前に、衛兵達は従う他無かった。
詰めた距離を、じりじりと離していく。
『どうしても私達の話を聞いてくれないと言うのなら…
私の、この顔に傷を付けます。
傷モノになった私を貰ってくれる男性なんて…どの道、いなくなるでしょう。
ここにいる、マレウスくらいしか』
喉元から刃をゆっくりと頬へと移動させ、ローズは両親に訴えかける。
彼女の言う通り、未婚の女性が顔に傷を負うというのは、その後の人生に大きく響く。この時代、そしてこの世界では 尚の事だ。
両親は、あまりのショックで声も出せなかった。
娘の無事を思い贈った御守りが…
まさか、こんなかたちで使われようとは。そんな2人の後悔は、計り知れない。