第1章 畏怖の念を抱かれし存在
「そういえばマレウスよ…」
「?」
周りからの痛い視線に気付きもしないマレウスに、リリアは声をかける。
「最近またハーツラビュルで、強い魔法力を持つ赤子が産まれたそうじゃ」
「そうか」
「二年前に産まれた、トレイ・クローバー。
昨年産まれた、リドル・ローズハートも話題になったがのう。
なんと言ってもリドルはハーツラビュルの王子じゃからな。
今年産まれたのはデュース・スペードとかいうたか…。
狡いのう、羨ましいのう…。同盟国のハーツラビュルにばかり…。
我がディアソムニアにも、有能な魔法士が欲しいとは思わんか?」
指を折りながら、彼等の名を並べ数える。
「そうか」
しかしマレウスは気の無い返事。
どうやら彼の興味は、産まれたばかりの自国の姫に注がれているらしい。
ただじっと、王妃の隣に置かれた乳母車を見つめていた。
「……」むぅ
まぁたしかに、マレウスにはこの生誕祭を心から楽しんでもらっていた方が良いだろう。
次にこのようなパーティーに招待される事など、いつになるか分からないのだから。
主人思いの彼は、自分の話を聞いてもらう事を諦めた。
そんな具合に、様々な人々が様々な思いを抱える中。
城お抱えの楽器隊が、意気揚々とラッパを吹き鳴らす。
煌びやかなホールの、高い天井にその音色はこだました。
「オーロラ姫様の許嫁であられる、オクタヴィネル国よりお越しのフィリップ王子様ー!」
大臣らしき者が、いかにもな羊皮紙を持ち、それを読み上げる。
すると、1人の少年が国王と王妃の前に歩み出て。
そのいかにも育ちが良さそうな見目麗しい彼は、2人にうやうやしく頭を下げる。
子供らしく、可愛らしい挨拶を終えると。ゆっくりと乳母車の方へ歩いて行った。
フィリップは早速、未来の花嫁の顔を覗き込む。
「………」
彼は彼女の顔を見るなり、筆舌に尽くしがたい表情になった。
言うまでもなくオーロラはまだ産まれて間もない。
その為、まだ顔からは赤みが抜けておらず。むくみも取れていないので、お世辞にも綺麗・美形とは言えない。
まだ幼いフィリップは、そういった一般的な知識を持ち得ないのだ。
だからこそ、これが彼の素直な反応といえよう。