第1章 畏怖の念を抱かれし存在
町民や妖精達は、そんな2人の事を遠巻きに見つめていた。
ある者は不安な表情、ある者は恐怖の表情を貼り付けていた。
彼等を生誕祭に招待したのは、他でも無いステファン王であった。
勿論反対の声も上がってはいたのだが。
このめでたい日を、出来るだけ多くの人々に祝って欲しいという優しく広いお心からであった。
「ご機嫌じゃのうマレウス」
マレウスの隣に立つ、リリアが語りかける。
「…う、うむ。やはり、悪い気はしない」
自分がまさか、こういう式典に招待されるとは思っていなかったのであろうマレウスは。
喜び半分、緊張半分といった面持ちだ。
しかしリリアには分かっていた。
彼が、ずっと周りの人々との関わりを持ちたいと願っていた事を。
マレウスが住む古城は、草の1本も生えない、空を覆う雲が晴れないような奥地にある。
そんな場所に住まう彼は皆から恐れられ、得体の知れない存在だと考えられており。
こういったパーティーなどに招かれる事など皆無だったから。
表情豊かとは言えないマレウスだが、寂しく虚しい思いをしている事を。リリアは知っていたから。
だから彼は、嬉しかった。主人が、稀に見る満足げな顔でここに立てている姿が見られたから。
まるで可愛らしい少年のような見た目のリリアだが、そこそこの長い年月マレウスに仕えている。
だから彼の事なら、大概の事は理解しているのだ。
「リリア…、僕が用意した“贈り物”は…彼女に喜んでもらえるだろうか」
「マレウスが、心を込めて選んだんじゃろ。
きっと気に入ってもらえるはずじゃ。自信を持て」
そう答えながら、リリアは意識的に笑顔を顔に張り付けていた。
なぜなら、2人はずっと周りの人々から畏怖の視線に包まれていたから。
少しでも他の主賓達を怖がらせないようにする為に、彼は笑顔を絶やさないのだ。
まぁ…幸福やら切迫やらで胸をいっぱいにしながら、全身で今のこの空気感を楽しんでいるマレウスは
リリアと違ってそんな視線には気が付いていなかったのだが。