第26章 眠り姫の物語
ローズが第一声を上げるよりも早く、群衆は騒めき始める。皆 マレウスを恐れているが故に、直接的な言葉を投げはしないものの、全員の気持ちは同じであろう。
“ なぜ、ローズの命を狙った悪党が、ここでこうしてこの場にいるのか ”
言葉にしなくとも、目がそう語っていた。
ローズが口を開こうとした瞬間、マレウスが一歩 王の前へと歩み出た。
そして、片膝をついて 前を見据えて言葉を紡ぐ。
「驚かせてしまって、申し訳ないと思っている。
だが、話を聞いてはもらえないだろうか」
「お前の話を聞く前に、まずは私の話を聞いてくれるか」
マレウスが返事をする前に、ステファンは話を始める。
「お前が娘に呪いを掛けたあの日 あの瞬間から…お前を思い出さなかった日は、1日たりとも有りはしなかったよ。
娘を守りきれなかった己を責め、娘を狙ったお前を恨んだ。
そんな怨敵であるお前が、どういう訳か 今、目の前にいる。
それも、ローズと並んで、私の目の前に立っている。
どうか、今すぐ消えてくれないだろうか。
怒りで…気が触れそうなのだ」
冷静に、淡々と。王は言葉を並べ切った。
冷ややかでいて、確実な憎悪を露わにするステファン王。そんな彼を見て ヒューバート王でさえも、見慣れぬ友の姿に身震いした。
恐れや怯えなんかを 簡単に凌駕してしまう程に、彼は怒っているのだ。
自分達の宝を傷付けられた事に対して。
『待って、それは誤解なの!お願いだから話を聞いて!』
「お前の頼みであっても、聞く耳など持たない。何があろうと、どのような事情があろうと…
私の目の前で お前が呪われたのは事実なのだ」
『っ、でも!』
どうにかして話を聞いてもらおうと、食らいつくローズ。そんな彼女を制して、マレウスは ゆっくりと息を吸い込んだ。