第26章 眠り姫の物語
リドルは、無駄に明るく能天気な この男が苦手であった。悪い人間でないのは承知していたが、どうも馬が合わないのだ。
背中から伝わってくる衝撃のせいで、前に つんのめりそうになるのをグッと堪え、眉間へ皺を寄せた。
そして心の中で呟いた。
“ 貴方は、ローズが選んだのが 自分の息子では無いと分かった時も、そう能天気に笑っていられるのかい ”
が。こんなふうに、部外者に近いこの男を揶揄してみても、何も始まらない。リドルはようやく我に返った。
出来るだけ波風を立てる事なく、しかし事の仔細をローズの両親に伝えなければ。
しかし、どのように…?
“ ローズは、自分を殺そうとした男を伴侶に選びました? ”
“ 国で最も忌み嫌われているであろう男と、ローズは結婚を決めました? ”
こんなストレートな言葉を聞かせてしまっては、2人は卒倒するのではないだろうか。
しかし、彼が適切な言葉を選び出す前に、その瞬間は訪れてしまった。
この大広間の前方に位置する 大きな螺旋階段から、たしかに感じられる 人の気配。
リドルも、ローズの両親も、集まった町人も客人も、全員が 同じ方向に視線を向ける。
皆、分かっていた。階段から降りてくる人間が誰なのか。
何故なら、この瞬間を 今か今かと心待ちにしていたのだから。
その場にいる全員が、近付いてくる靴音に集中する。この国の光であり、希望そのものである人物の来臨に身構えるのであった。