第25章 全てを 超えて
「これで、もう僕がここに留まる理由は無いな」
「はぁ!?」
驚きの声を上げたのはデュースであったが、理解が追い付かないのは皆んな一緒だった。
そんな周りを置き去りにして、マレウスはドアを内に開く。
僅かに開いたドアは、他の人間の手によって即座に閉められる。彼を部屋から出すまいとしたのは…トレイだった。
「おいおい。何をそんなに急いでるんだ?普通 帰らないだろう。この状況で」
「そちらの “ 普通 ” を、僕に当て嵌ないでもらおうか」
「へぇ、じゃあなんだ。
気持ちが通じ合ったばかりのお姫様を放置して立ち去る。これが お前さん達の “ 普通 ” なのか?」
「何か勘違いをしていないか?
これは、御伽噺ではない。全ての終焉に 美しい結末ばかりが用意されているなどと、期待しないことだ」
トレイの顔は一見朗らかに笑っているかのようだが、その実 眉間には皺が寄っている。マレウスとて 口角こそ歪められているが、とてもじゃないが これっぽっちも愉快そうには見えない。
『…マレウス』
しかし。ローズがその名を呼ぶと、彼は途端にピリついたオーラを消した。
『お願い、こっちを向いて』
そして、悲しそうな瞳を彼女に向けた。
『貴方が、私の前から去ろうとしている理由は…もしかして、以前教えてくれた、異種族間の違いが原因?』
「……」
『…沈黙は、肯定と取るわね。
ねぇマレウス、たしかに人間と妖精族の寿命が大きく違う事は、決して小さな問題では無いと思う。
でも…それでも私は!』
「ローズ。それ以上はキミの口から言ってやる事はないよ」
黙って聞いていたリドルだったが、唐突に口を開いて、ローズの言葉を切った。