第25章 全てを 超えて
この場の空気が淀み、張り詰めているのは、マレウスの強過ぎるオーラのせいだけでは無い。
4人の複雑な、それぞれの想いが この空気感を作り出していた。
マレウスは、この事態を自分のせいだと自覚していた。しかしながら、謝って済む問題でない事も重々理解している。だからこそ、彼らに何をどう言ってよいものか思案しているのだ。
リドル達はリドル達で、マレウスの事を憎い気持ちは当然ながら抱えていた。しかし、ローズを最優先で考えねばならない。自分の怒りや憎しみをぶつけるのが正解ではないと分かっていた。
他でもないローズが、この男を望んでいるのだから。
全員が、誰に向けて どんな言葉を発したものかと思慮している。
…意外なことに、この長い沈黙を破るのはマレウスだった。
「さぞ、僕が憎いのだろうな」
「……流石に、ご自分の立場は理解しておいでのようだ。
そうだよ。ボクらは、キミが憎い」
揺らめく炎を瞳に宿し、氷のように冷たく言い放ったリドル。そのまま言葉は続けられた。
「でも…キミが、いま 後悔しているという事実だけは認めよう。
ここにこうして現れたのは、勿論…ローズを救う為。違うかい?」
マレウスは、無言でリドルを その瞳に映しながら…
シルバーの言葉を思い出していた。
“ 人とは 他を許し、そして愛せる生き物です ”
この土壇場で初めて、シルバーの言葉の真意を理解出来たのだった。
そしてマレウスは、そこに 人の美しさを見た。