第25章 全てを 超えて
マレウスが眠らせたのは、なにも群衆だけではない。
この国に存在する “ 全て ” である。
城の前に構える大きな噴水は、その水を天に吹き上げることをやめた。
木々の上で羽を休めていた小鳥の親子は、すやすやと体を小さく上下させている。
今この瞬間、この国はたしかにローズと共に眠っているのだ。
「…なんて、事だい」
その様子を、廊下の窓から見つめていたリドルは呟いた。
自分達が眠らせた時は、6人がかりでやっとだったのだ。しかも、城内の人間だけの話。対してマレウスは、たった一瞬で 国そのものを眠りにつかせたのだ。
トレイとデュースも、自分達との力の差を見せつけられたような気がして、驚愕の声を漏らす。
「あ、ありえない…!」
「あぁ…もはや、人智なんてものを超越してる」
「人智…そんなもの、僕には当てはめられない」
突如として隣に現れた気配と、底冷えのするような冷たい声。彼らは思わず驚きのあまり声を上げそうになる。
しかし当の本人は、淡々と言葉を紡ぎ続けた。
「何故なら、この僕は “ 人 ” ではないからな」
「…マレウス」
リドルは、先ほどまでたしかに見ていたのだ。
この男が、城の外門に立っていた場面を。ここから。
繰り返しになるが…マレウスにとって、空間を飛び越えるくらい 至極容易いことなのだ。