第24章 誠意の欠片も感じられない謝罪
激しい交戦の音を背で感じながら、アズールは静かに移動する。そして、彫刻の施された大扉に手をかける。
徐々に力を加えると、その黒い扉は重々しい音と共に口を開いた。
滑り込ませるように城内に身を滑り込ませたアズールは、途端に大きく息を吸った。すると その一呼吸目で、彼の姿は透明ではなくなる。
実は、体を透明に出来るのは、息を止めている間だけなのだ。彼は他者から数多くのユニーク魔法を拝借しているが、この魔法はその中でも利便性に優れていた。
事実、こうして城の中に侵入出来たのだ。たとえ 呼吸を止めている間しか姿を消せなくても、これを突然食らった敵は混乱する。なのでやはり、優秀なスキルといえよう。
アズールが扉を開いたことで、ホールの中には空気の流れが生まれる。黄緑色の蝋明かりがゆらゆらと揺らめいた。
黒を基調とした禍々しい雰囲気が、ホール全体を包んでいる。それでなくても石造りで冷たい印象なのに、溢れる “ 黒 ” がさらに来訪者に暗い印象を与えていた。
思わず、辛気臭くて嫌になる。と、独りごちてしまう。
「やはりお主もそう思うか?わしも常々そう感じているんじゃが、これは この城の主の意向でのぅ」
「!!」
人の気配など、このホールにはなかったはずだ。少なくとも、アズールがここへ足を踏み入れた瞬間までは。
しかし、いつの間にか彼はそこにいた。
背もたれの高い椅子に優雅に腰掛け、紅茶を啜る。
まるで幼児のような可愛らしい姿に見合わぬ、この喋り口調。
他でも無い、リリアである。
今からでも息を止め、姿を隠してマレウスのところまで駆け抜けてしまうか。そんな考えもアズールの頭には浮かんだが、結局は実行には移さない。
ビジョンが、まるで浮かばなかったのである。この、小さな男から逃げ果せる ビジョンが。