第23章 呪われし姫の帰城
3つの扉を目の前にした時、デュースは僅かばかりの違和感を その扉から感じ取った。
本当に、些細な違和感だ。
例えるならば、美しく澄んだ湖の中に、一滴だけ黒のインクを落としたような。100人で歌う合唱の最中、1人の人間が一音を半音外したような。
そんな、軽微で取るに足りない違和感。どうしてそれをデュースが感じ取ったのかは、彼にしか分からない。説明のしようがない。
その部屋に、光は無い。あるとするなら、銃眼から差し込んでくる淡い月明かりくらい。
カタカタと、音がする。一人でに動く糸紡ぎの音だ。
人の気配は無く、その無機質な音だけが彼の神経を尖らせた。
暗さに目が慣れた時、彼は絶望した。
歩み寄った。
膝を屈した。
彼女の前に。
「っぅ、……嘘だ、ローズ…!嘘だよな、
はは…。おい、ローズ…。返事、しろよ」
彼の脳は、彼自身を落ち着けなければならないと、笑いを起こさせた。体がそう命令してやらないと、デュースは自我を保っていられそうもなかったのだ。
そこへ、他の部屋の捜索を終えたリドルが入って来る。リドルは2人の元へ近付き、ぽつりと ローズの名を呼んだ。
おそらく、その後にデュースの名を呼んだと思う。しかしデュースは、自分の名が呼ばれたかどうかも分からなかった。
視覚も、聴覚も、ありとあらゆる神経は全て彼女に向いていたから。