第22章 真実の愛はディアボリック
マレウスにしてみれば、何の脅威でも無い。兎が立ち向かって来たとて、肉食獣が怯みなどしないように。
だが、心は確実に抉られた。
肉食獣は、兎に恋をしていたから。
自分に初めて、愛を教えてくれた存在が それとは真反対の感情を向けているのだ。
そして ローズもまた、その心は壊れてしまう寸前であった。頭の中と、心の中はバラバラだ。
愛しい人にナイフを向けている自分と、友人を守りたいという自分が、まるで別人のような感覚。
もしかすると、彼女はマレウスに刃を向けているのを自覚していないのかもしれない。
しかし…歯はガチガチと鳴って、瞳は潤んで、手は震え、喉からは ヒュっという正常ではない呼吸音がしていた。
見つめ合う2人の時間は、止まってしまったかのよう。
マレウスは、自分に向けられた光る切っ先を見て 全てを悟った。
もう、終わったのだ。
1番知られたくない真実を、最悪の形で知られてしまった。もう、何をどう足掻いたって、自分の想いがローズに届く事はない。また、ローズが自分を愛してくれるかもしれないという薄い可能性は、これでゼロになった。
もう、彼女の笑顔がこちらに向けられる事は金輪際ありはしないのだ。
「……ローズ」
『!!』
マレウスは、震える刃を掴む。光る刀身に彼の指が触れた途端に、黒い煙がジュゥっと音を立てて溢れ出す。
まるで痛みを感じない、壊れた人形のように 何の反応も示さないマレウス。
彼は、そのまま刃を 自らの心臓に持ってゆく。
優しく、終焉へと誘う。