第3章 暗躍する確固たる悪意
その頃…
茨の谷にてそびえ立つ古城では。
「……っ、!」
「?マレウス、急に立ち上がってどうした」
マレウスとリリアが、同じ部屋で読書を嗜んでいたのだが。
何の前触れもなく立ち上がった主人に、驚いたリリアが声をかける。
「ほれ。落としたぞ」
立ち上がったまま呆然とするマレウス。
彼が先ほど手からこぼした本をリリアは拾い上げてやる。
何気なく本のタイトルに目を向ける。そこには、
“ 他人との上手なコミュニケーションの取り方 ” とあった。
「………」マレウスよ…
主人の甲斐甲斐しい努力に、胸がきゅっと締め付けられるリリアであった。
その時、やっとマレウスが口を開いた。
「…オーロラの身に…何かが起きているかもしれない」
「??」
マレウスの言葉に、リリアは首を傾げる。
そんな彼に、マレウスは何故自分がそう感じたのかを説明する。
「約10年前に、僕がオーロラに贈ったガーゴイルがあっただろう」
「ああ、よく覚えておるぞ。
たしかマレウスは、わざわざ自分の姿そっくりに作らせたガーゴイルを
姫様に贈ったんじゃったな」重めじゃのお
ニヤニヤして話すリリア。明らかに当時のマレウスをからかうような口調だった。
「そ、そんな事は今は関係ない」
「くくく、話の腰を折ってすまんかった。続けてくれ」
謝るリリア。
しかしマレウスは、彼は絶対にワザとやっているのだろうと心の中で思った。
なんとか気を取り直して話を続ける。
「そのガーゴイルが何者かの手により、いま破壊された」
「…驚いたの。お主、あのガーゴイルにそんなまじないをかけてあったのか」
そう。マレウスは、アレに何かあれば。自分が感知できるように魔法を施していたのだった。
「城の者が気味悪がって、破棄したのではないかのう?」
リリアの言葉に、マレウスはあからさまにぶすっとした。
おそらく、気味が悪い。の単語に引っかかったのだろう。
「…やるならば、10年前にもう壊してるだろう」
彼は黒いコートを手に取り、玄関へと向かった。
そんなマレウスに、リリアは言う。
「…城へ行くのか?今から行ったところで、相当な時間がかかると思うがのう」
「……誰に、言っているのだ?」
彼が微笑むと同時に、背中から大きな翼が現れる。
それは、まるでドラゴンのような漆黒の翼…。