第3章 暗躍する確固たる悪意
彼の長い足はまるで鞭のようにしなり、信じられないくらいの攻撃力を誇っていた。
彼よりも体格も良く背丈もある大人達を、軽々と吹っ飛ばしていくのだった。
やがて…
その場に立っているのは、フロイドだけになった。
迫り来る男から、我が娘を守ろうと。
母は必死でオーロラを抱きしめた。フロイドから彼女を隠すように。
しかし、そんな慈愛に溢れる光景も
彼の心には何1つ響かなかった。
フロイドは、リア王妃の延髄に軽く手刀を入れる。
とん。という軽い音がしたかと思うと、王妃の体からは簡単に力が抜けた。
『っ!』
自分の上に覆い被さって気を失う母。
その体を押しのけて、オーロラは立ち上がる。
そして、両手を広げて母を庇い…フロイドを睨み付けた。
「………」
『……っ、』
無言で睨み合う、オーロラと族。
フロイドは、正直ガッカリだった。
(…違うよお姫様。
オレはねぇ、君のそんな顔が見たいんじゃない)
彼は、オーロラの
言いようのない絶望に胸がさいなまれ、涙で顔を濡らし、どうか殺さないで欲しいと彼に縋る。
そんなところが見たかったのだ。
(こんなにも強くて…綺麗なところが、
見たかったんじゃないんだよねぇ)
彼は突如、オーロラに背を向けた。
『?』
当然自分の事を攻撃してくるのだろうと思っていたオーロラは、不思議そうに彼を見た。
フロイドがここに来た本当の目的。
それは…彼女の “宝物” を破壊する事。
ガーゴイルに向き直るフロイド。そんな姿を見て、オーロラはすぐに悟った。
彼が、自分の大切にしているガーゴイルを破壊しようと目論んでいる事。
フロイドは、静かに両手を掲げた。
(…これ壊されちゃったら〜
お姫様の顔は歪むのかなぁ。想像するだけで、テンション上がるー)
『やめてっ、それは壊さないで!』
彼女は彼の、黒くて長いマントを力一杯引いた。
しかしそんな声に、彼が耳を貸すはずはない。
彼の頭上に、異様なほど高い魔法力が集約していく。
そして…
圧倒的な威力を保ったまま、それはガーゴイルに叩き付けられたのだった。