第19章 悔恨と踠きのドラコニア
「妖精族の間では有名な話だが…」
ローズの話が終わるなり、マレウスは口を開いた。
「ユニコーンという生き物がいる」
ユニコーン。ローズも、名前は聞いた事がある。しかし、それは空想上の生き物だと認識している。
「額から大きな角を生やした、白馬のような見た目をしている。知っているか?」
ローズはこくこくと頷いた。マレウスは続ける。
「ユニコーンの角には、どのように穢れた水でも 綺麗に浄化出来る力が備わっていると聞き及んでいる」
『え!!』
その話が真実で、本当にユニコーンという生き物が存在しているならなば。今 すぐにでも会いに行かねばならない。
「だが、妖精族である僕達ですら会う事は難しい」
『どうやったら会える?』
その瞳を見るだけで、ローズがどれほど強くユニコーンに会いたいのか分かった。
「…神秘の湖に、満月の夜だけ現れる」
マレウスは、ふわりと空を見上げて言った。彼女も、彼とほぼ同時に天を仰ぐ。頭上には、満ちに満ちた月が ぽっかりと浮かんでいた。
『今日…!』
「ああ。
ふふ。これも、なにかの巡り合わせかもしれないな」
マレウスが妖艶に微笑んだ。それを見たローズは、これから彼が自分を神秘の湖へと案内してくれるのだと悟る。
『ちょっとだけ待ってて!私、今から貴方と出掛ける事を皆んなに話』
既に走り出していたローズの体を、マレウスが止める。
強い力で、腕を がっと掴んだのだ。
『…マレウス?』
「僕の事は、誰にも言ってはいけない」