第19章 悔恨と踠きのドラコニア
『最近もよく考えるの。
あのドラゴンは、今どうしてるのかな。今でも寂しい目をして遠くを見ているのかな。って。
憎いとか、怖いとかは思わない。
…今は寂しい思いをしてなければ良いなって。大好きな仲間に囲まれていて、楽しく過ごせてれば良いのになって。
ただ、幸いが 訪れる事を願う』
妖精族であるマレウスは、当然 人間よりも長く生きている。彼らの寿命は、人の数倍 いや数十倍。
そんな長く生きている彼だが、未だかつて こうも何かに心を強く突き動かされた事があっただろうか。
いや、絶対にない。
そう断言できるほど、今マレウスの心は震えていた。
どうして別種族である人間が、こんなにも 自分の心の奥に秘めた柔らかい部分を 理解してくれるのか。
どうして、こんなにも深い愛で 自分の事を包んでくれるのか。
マレウスには分からない。
ただ、愛おしい。目の前の生物が愛おしい。
相手を想い、見守って来たのは 自分だけではなかったのだ。
彼女もまた、姿も見えぬ自分を 案じてくれていたのだ。その優しい心を 自分の為などに痛めてくれていた。ずっとずっと、何年も。
その想いが見えてしまった今、目の前の彼女を どうして愛さずにいられようか。