第19章 悔恨と踠きのドラコニア
『本当に大丈夫。だから、そんなに悲しい顔をしな』
「さぞ、憎いだろうな」
ローズの言葉を遮り、マレウスは悲しげに言葉を紡ぐ。
「お前に呪いをかけた…そのドラゴンとやらが」
『ドラゴンが…憎い…』
彼女はマレウスの言葉を繰り返すように、呟いた。そして顎に手をやって真剣に考えている。
マレウスはもしかすると、彼女から咎められたいのかもしれない。
ドラゴンが憎いという言葉を聞いて、自分自身を痛め付けたいのかもしれない。
どういう意図を持って、この質問をぶつけたのか。真意は彼にしか分からないが。
『考えた事が、なかった!』
「!」
しかし彼女は、マレウスが望む言葉を吐かなかった。
『…つまらないかも知れないけど、聞いてくれる?
私自身の、昔話』
「聞こう。人の子の話は、どんなものでも興味深い」
マレウスは頷くと、手頃な木の幹に背中を預けた。
『私が生まれた時ね、お城で生誕祭が行われたの。
それで、その時 色んな人が色んな贈り物を、私の為に用意してくれて…
その中に、ドラゴンを模したガーゴイルがあった』
静かに耳を傾けていたマレウスの肩が、ピクリと反応した。
『皆んなが、そのガーゴイルを見て 恐ろしいとか、不吉だとか言っていたけど…
私は、何故だかそれが凄く気に入っていた。不思議よね、どこの誰からの贈り物なのか教えて貰えなかったから、送り主さえ分からないそのプレゼントを こんなふうに大切に思えるなんて…。
でも、そのガーゴイルは 悲しそうな目をしていた。
爪も牙も持っていて、格好良くて 誰よりも強そうなのに…、誰よりも 寂しそうな目をしていたの。
私に呪いをかけたドラゴンも、そのガーゴイルと 同じ目をしていたわ』