第19章 悔恨と踠きのドラコニア
マレウスは、未だに知らないのだ。
ローズが、自分を呪った相手は ドラゴンだと思い込んでいる事を。
そのドラゴンとマレウスが、同一人物だと、彼女が認識していない事を。
なおの事、彼女にどう顔向けして良いのか分からないのだ。
マレウスは、黄緑色の燐光が宿った その鋭い瞳の中にローズを焼き付けると。
その場を後にしようと、すぐに身を翻した。
しかし、足を踏み出した途端に くん。と後ろに身を引かれた。
ローズが裾を引き、自分を行かせまいとしたのだと すぐに分かった。
『待って、マレウス…。行かないで。私は、私はずっと貴方に…会いたかった!』
一途に、直向きに、必死に自分の事を見上げる彼女の瞳。彼を引き止めるには十分だった。それはいとも簡単に彼の心を震わせた。
「…理解が出来ない」
『え?』
マレウスは、自分の服を掴むローズの手をとった。
初めて触れる彼女の手は、柔らかく。信じられないくらい温かくて。もしかすると自分の体を溶かされてしまうのではないかと想像した。
「僕が、怖くないのか?恐ろしくないのか?
その身には確かに、死の呪いを宿しているというのに」
『!!』
とった華奢な手を、ぎゅっと強く握って問い掛ける。
死の呪いを施した張本人が、怖くないのか。と。
『どうして…貴方が、私の呪いの事を…』
「??」
マレウスが その言葉の意味を理解しようとしている間に、ローズは握られた手を引っ込める。
『…ごめんなさい。呪われた人間に触れられるなんて、気持ちが悪かったわよね』
申し訳なさそうな彼女の顔。いつまでも噛み合わない会話。否が応でもマレウスは勘付く。
『マレウスの事は、怖くない。だって、私を呪ったのはドラゴンだから』
呪った相手が、今 目の前にいるというのに。彼女はその事実に、一切気が付いていないのだと。