第19章 悔恨と踠きのドラコニア
「あっは!ちっせぇ 字〜」
2人の気持ちを、まるで代弁するかのような言葉だった。
「さ、さすがにこれは卑怯なんじゃ」
「何を言います!約款にしっかり目を通さない方に非があるというもの!
僕を卑怯者扱いするなど、甚だ遺憾ですね!」
これ以上アズールを責め立てようなものなら、今度は精神的苦痛を理由に慰謝料まで請求されてしまいそうだ。
『…はぁ。なるほど。じゃあ、私に残された時間は後1日と半分。
それまでに解決策を見つけるか、アズールと婚約するか。
どちらかを選ばない場合は…。私は、糸車のつむに触れなければならない。そういうわけね?』
ローズは、頭に手をやって情報を整理した。
「ご理解頂けたようで、なによりです」
頭痛を抱える彼女に対し、なんとも満足そうな、にっこり顔のアズールであった。
「おいローズ。あんな滅茶苦茶な契約に、まさか従うつもりじゃないだろうな」
オクタヴィネルの3人から少し距離を取ったところで、2人はヒソヒソと相談する。
『うーん…そうねぇ。どうしようかしら』
「なんだか他人事だな。婚姻だぞ?分かってるのか」
『分かってる、つもり。
まぁフィリップとの婚約は、きっととっくに破棄されてるでしょうから大丈夫よね』
ローズは、自分のような生きるか死ぬかも分からない相手を、フィリップが待ち続けているなどとは思いもしなかったのだ。
『まぁ、ちょっと一人で考えてみ』
その時。2人の密談の場に、フロイドがヒョイと顔を出す。
「あっは!お姫様知らねぇの?アイツ、婚約破棄どころか めちゃくちゃアンタのこと好」
「こらフロイド!!自分が仕えている王子様の事を、アイツ呼ばわりなど許しませんよ!」
「うっせーなぁ。オレそういうの超きらい」
自分にとって都合の悪い事を口走りそうになったフロイドに、すかさずアズールが適当な言葉をぶつけて誤魔化した。
話の邪魔をされたフロイドが機嫌を損ね、その場で暴れ出しそうな雰囲気だ。それをアズールとジェイドが止めようとするが、更なる乱闘の予感…。
見兼ねたトレイが更に場の収拾に駆り出される。
バッタバッタと慌ただしく、とても静かに一人 考え事を出来る状況ではなくなってしまった。
『…ちょっと、夜風に当たって来ますねー』
ローズは、静かに玄関扉を開くのだった。