第18章 穢れた海とマーメイド
フロイドと話をするつもりはなかったのだが。
ふと 自分の宝物を壊された時の記憶が蘇り、その記憶と、見ず知らずの人魚姫の気待ちとを重ねてしまう。
すると、なんだか少し そのお姫様の事が気になったのだった。
『今は…その人魚姫は、どこで何をしてるのかしら』
「さぁねぇ。
まぁでも〜、もしもアズールの作った人間になる薬で、陸にいる大好きな王子と幸せに暮らしてたら…。それって素敵じゃね?」
フロイドの口から、なんとも似つかわしくない言葉が飛び出した。ローズは驚きこそしたが、その幸せでお伽話のような情景を思い浮かべて、自分の胸に少しだけ温かさが戻るのを感じた。
『…ふふ。そうね、もしそうだったら 本当に素敵』
フロイドは、自分が思っているよりも優しいのかもしれない。彼女はそう思い直した。
『フロイド、私のこと 追いかけて来てくれて ありがとう』
「べつに〜?泣いてるアンタが見られるかなぁって思っただけだし?」
『それはそれは。泣いてなくて残念だったわね』
フロイドは、不服顔でローズに纏わりつくようにして擦り寄ってくる。
「さっきさぁ、病院で…なんで謝んなかったわけ?てきとーにでも謝っとけばさぁ、あいつらも少しは気が済んだんじゃね?」
彼の言葉で、ローズの脳内に 患者達とのやり取りが鮮明に呼び起こされる。
『そうかも、しれない。
でも。だからこそ、私はあの場で謝ってはいけないと感じた』
「??」