第18章 穢れた海とマーメイド
まだ泳ぎには慣れていないはずのローズだったが。まるでその泳ぎは、産まれついての人魚のようであった。
それくらい、流暢な泳ぎでこの場を去った。きっと本人は無自覚だろうが、とにかく早くこの場から離れたいと 感じたのかもしれない。
そして、海藻の茂みを抜け、泡のカーテンを抜けた先。どうしても1人になりたい彼女は、暗い小さな洞窟を発見した。
入り口を隠すように置かれている重たい石を、何とか自分だけの力でズラす。
そして、洞窟中央にある石の上に腰を下ろした。
『 』
今の彼女からは、何の感情も読み取れない。そんな、虚無としか言い表すしかない表情のローズ。
普通であれば、話しかける事すら憚られる。しかし、普通では無い男が 平然と彼女に近付いていく。
「あはっ。すごい嫌われようだったねぇ。
ねぇねぇ泣いちゃう〜?大丈夫だよ、オレが優しくギュッてしてあげる」
フロイドは、ローズの周りをゆらゆらと揺蕩いながら笑ってみせた。
『…フロイド。ちょっと1人にしてくれない?』
「え?ぜって〜ヤだ」
どこまでも、優しく無い男だ。とローズは密かに思う。
小さく溜息を吐くと、天井を見上げる。縦長の洞窟は、最上部に小さな穴が空いており、そこからは空の光が漏れている。
「この場所ってさぁ、人魚姫の秘密基地だったらしいよ?」
天から溢れる光を見つめる彼女に、フロイドは語りかける。
『……』
「ほら、壁が全部 棚みたいに段々になってるでしょ〜?そこに人間界の物並べてコレクションしてたんだって。
まぁ人間嫌いの王様に見つかって、ぜーんぶ粉々にされちゃったらしいけど。ちょうウケる〜」