第18章 穢れた海とマーメイド
ローズは、自分の足元に落ちたスケッチブックを拾い上げ。手の平で軽く叩いた後に、それを少女に返そうとしたのだが。
少女は、それを受け取ろうとはしなかった。それどころか、目にいっぱい涙を浮かべて 出来る限りの嫌悪を顔に貼り付けてローズを睨み上げている。
『………』
ローズは受け取っては貰えなかったスケッチブックを、そっと少女の膝の上に置いた。そして静かにその部屋を去ろうとする。
「…は、さすがは人間ですねぇ。自分達のせいで苦しんでいる者を前にしても、謝罪の言葉の一つも口にしないとは!
傲慢で…、冷徹な 生き物め」
ローズは、アズールの攻撃的な言葉には何も返さないで、少しだけ悲しそうな瞳をしただけだった。
そして、無言のまま出口にて深々と頭を下げ、病室を後にしたのだった。
病室を出ると、そこにはまだ記憶に新しい人物の影が。
『…フロンダー』
ローズは思わず、その小さな少年の名を呼んだ。
彼は、今 ここに来たところなのだろうか。それとも、先ほどのアズールの言葉を この廊下で聞いていたのだろうか。
「——あっちに行って!お前なんか…!
大嫌いだ」
この言葉とキツイ視線で、彼女はフロンダーが、事の一部始終を見ていたのだと悟る。
ローズは、瞳を伏せるだけで、やはり彼にも言葉を返さなかった。
そして、飛び出すように病院を出るのだった。