第18章 穢れた海とマーメイド
密かな彼女の決意の声を、近くにいたアズールだけが聞いた。
「…いいでしょう。貴女の覚悟、見せて下さい」
彼もまた小さく呟いた後、今度は声高々に ローズを地獄へ突き落とす言葉を吐く。
「先ほど、皆様に優しい言葉をかけ、体に触れた この人物の正体を 私が教えて差し上げます!
彼女は…、この人は、
この海を汚染し、皆様を苦しめる元凶となった人間!ディアソムニア国の第一皇女、その人なのです!」
『………』
ローズは、下を向いてしまいたい気持ちを堪え。その場にいる全員に自分の顔が見えるように、しっかりと上を向いた。
そんな彼女に、容赦なく攻撃的な視線が突き刺さる。
ローズを、まるで天使のようだと言った女性は、今では悪魔を見るような目で彼女を見ている。
ようやく笑顔を見せてくれた男性は、きつく唇を噛み締めて。見えない目でローズを睨んだ。
先ほどまで、共に筆談をしていた少女は…。
持っていたスケッチブックをローズに投げ付けた。
『……』
それは容赦なく彼女の体に当たり、バサリと地面に落ちた。
落ちたスケッチブックのページには、まだ完成していない文字列が並んでいる。
アズールが話を始める前、少女が何か言葉を書こうとしていたのだが。それが途中になってしまっていたのだ。
そこに書かれていたのは…
《ありが》
という、未完成な言葉。
きっと、ありがとう。という単語が完成する事は、二度と無いのだろう。