第18章 穢れた海とマーメイド
「人間のせいで苦しんでいる皆様方!」
アズールが声を張り上げると、その部屋にいた全員の視線が当然のように集まる。
彼が、この海を守る為に 人間界に出向いているのは、もはや周知の事実だった。ここにいる患者達からすれば、アズールは自分達の為に戦ってくれている救世主と言っても過言ではない。
「その労しいお姿を見てるだけで、僕も本当に心が痛みます」
両手を広げてみたり、悲しそうな表情を見せたり。オーバーでいて、まるで演説をするような彼の姿を皆んなが注目している。
「それもこれも…全ては、愚かな人間のせい…。
あぁ、そういえば、彼女をまだ皆様にご紹介していませんでしたね」
不自然な話の切り替え方に、誰もが不思議そうに首を傾げた。
アズールはそんな周りなど気にする事なく。後ろから優しくローズの両肩に手を置いて、皆の前にゆっくりと進ませる。
『っ、…』
皆の目を、今度はローズが集める事となる。明らかに彼女の顔色はぐっと悪くなる。
そんなローズを、アズールは満足げな顔で見つめている。
その一方で、フロイドとジェイドはまた違った瞳でローズを見ているのだった。
2人の歪んだ口角を見るだけで。彼女には彼らの考えている事が手に取るように分かった。
(ほらほらお姫様ぁ。俺達なら〜、こんな状況からでも簡単に助けてあげられるよぉ?)
(そう。貴女は僕達に向かって ただ一言、伝えるだけで良いんですよ?)
(助けてって)
(助けて、と)
ローズは、考える。
きっと今 一言、助けて。と彼らに縋れば…。あの2人はすぐにでも この場所から自分を攫って逃げ出してくれるだろう。
しかし…。
彼女の中には、逃げる、助けて貰う。という思考など有りはしない。
『私は、今 ここで…裁かれる。ここにいる全ての人から、憎まれる。恨まれる。
それこそが、今の私に出来る唯一の事』