第18章 穢れた海とマーメイド
くっきりと切れのある二重から覗く瞳は、見事な黄金色で。まるでピカピカに磨き上げられた金貨を思わせる、美しい瞳…。
の、はずだった。
病に蝕まれ、濁ってさえいなければ。
「…どんどん、白く。濁ってきたんですよ。
自分で言うのもなんなんですが、こうなる前はそれなりに綺麗な色だったんですけどね」
『大丈夫です。大丈夫。
必ず、その美しい輝きを取り戻す日は、来ます』
「!」
男性は、ローズの言葉にハッとして。そしてゆっくりと、その瞼を下ろしていく。
それを確認してから、彼女はゆっくりと手を伸ばす。
『1日も早く…見えるようになりますよう』
触れるか触れないか。それくらい繊細に、ローズの指先は瞼の上に置かれた。
『また、その輝きを取り戻しますように…』
ローズも彼と同じように、静かに瞼を下ろす。そして願った。
すると、おもむろに男性が口を開いた。
「……昔、看護師をしていた祖母が言っていました」
男性は、喉奥が熱くなるのを堪え、続ける。
「まだ、薬も満足に無かった時代。苦しむ患者を見ているしか出来なくて、悔しくて…。それでも自分に何か出来ないかと、患者の患部に、“ 手を当て ” 続けたそうです。
そしたらね、患者が言うんですって。
ありがとう。楽になった。貴女のおかげだ、ありがとう。と。
“ 手当て ” という言葉は字の如く “ 手を当てる ” が語源になっているそうです。
きっと、その患者は 気休めでもなんでもなく。本当に楽になったのだと思います。本気で他人の為に心を痛め、優しく手を当ててくれる人間の優しさに触れて。
そう…。今の、俺みたいに」
彼は、初めての笑顔をローズに向けるのだった。