第18章 穢れた海とマーメイド
その女性の元を離れるローズ。
アズール達は、まだ黙って彼女の一挙手一投足を見つめ続けていた。
彼らには、まだ分からない。
ローズが何を考え、何をしたいのか。
そんな彼らの胸中を他所に、ローズはまた違う患者の元へ向かう。
次に向かい合うのは、目を包帯で覆った、盲目の男性だ。まだ年の頃は20前後だろう。目の見えない彼を驚かせないよう、小さな声で ゆっくりと話しかける。
『…はじめまして。私は、ローズと申します。少しだけ…お話がしたいのですが、構いませんか?』
男性は、すぐに顔を上げた。そして声のする方向に体を向ける。目が包帯で隠れているので視線は合わないが、しっかりと顔はローズの方に向けられていた。
「え?はい、どうぞ」
その男性も先ほどの女性と同様、最初こそ驚いていたが すぐに時間を共有する事を許してくれる。
『ありがとうございます』
「はぁ、でももうして俺と話を?初対面ですよね?」
視界を奪われている事で、やはり不安感が募るのだろうか。男性は些か早口で質問をした。
『はい、初対面です。でも、どうしても私が 貴方と話をしたくて…。
不躾な質問なのですが、貴方は 目が全く見えないのですか?』
ローズは、出来るだけ彼を気遣い 答えたくなければ答えなくて良い。そう言葉を付け足して、彼に問う。
「やはり、日に日に視力が落ちているんですよ。今は、包帯を取っても取らなくても変わらないくらい…。
明るいか、暗いか。それくらいの判別がつく程度ですかね」
男は、ハッキリと言わなかったが。それは、全く見えないと言っているも同じだった。
心のどこかで、まだそれを認めたくない。そんな心理が働いているからこその発言かもしれない。
『少しだけ…瞼に触れても良いですか?』
「え?」
思わず声を上げる男性だったが。ローズの真剣な声色を受け、ゆっくりと首を縦に振った。
「ですが…変わってますね貴女は。見ず知らずの男の目に触りたい、だなんて」
言いながらも、彼は慣れた手つきで シュルシュルと包帯を解いていく。
やがてそれが全て取り去られ、ゆっくり瞳が開かれる。