第18章 穢れた海とマーメイド
『いえ、気持ち悪くなんて、全然ないです。
もしご不快でなければ、手を…当てさせて貰っても良いですか?』
ローズの唐突なお願いに、彼女は目を大きくする。
「え…、でも、人の傷に触れるなんて、やっぱり気持ち悪いでしょう?」
戸惑う女性に対し、静かに首を振って。ローズは、その手で傷に触れる。
そして、優しく患部を撫でる。それは、まるで母親が子供の頭を撫でるように。慈愛に満ちていて、たしかな愛情がこもっているようだった。
『どうか、1日も早く。良くなりますように』
目を瞑り、呪文を唱えるようにローズは何度も指を往復させた。
「………貴女は、」
最初こそ、驚きから動揺していた女性だったが。自分の傷口に、なんの躊躇もなく 優しく触れるローズに、次第に心が解きほぐされていく。
目は涙で潤み、零すように言葉を口にする。
「貴女は、とても優しい子なのね」
その言葉に、ローズの手に動揺が現れた。ぴくりと反応してしまう。
『…いえ。私は、優しくなんてないんです』
思い詰めたような顔をするローズに、女性は柔らかく語りかける。
「貴女自身は、貴女の事をどう思っているかは分からないけれど…。
少なくとも、私にとっての貴女は 優しくて 心の綺麗な方に見えるわ。
そうねぇ…。使い古された言葉だけど、まるで天使様のようだわ。
ありがとうね。私に、優しくしてくれて」