第18章 穢れた海とマーメイド
『どこか、体が悪いの?』
「…ボク、気管が弱いんだ。ちょっと運動したりすると、すぐに咳が出ちゃうの」
ローズはフロイドを睨み付けた。彼はフロンダーの体の事を知っているのに追いかけ回していたのだろうか?
当のフロイドは、何食わぬ顔で口笛を吹いてローズの視線を躱した。
「でもね、生まれつき弱かったわけじゃないんだよ?気管が悪くなっちゃったのは、1年か2年ぐらい前から。
この、黒いドロドロのせい。これのせいで、ボクの体は…」
フロンダーが、悲しそうに俯いたその時。ローズの背後から、待ち合わせをしていた人物の声が聞こえた。
「遅かったですね。どうぞこちらへ」
アズールの声だった。すぐに声のする方へと振り返る。
『た、タコ!!』
病院の廊下に、ローズの声が響いた。
「……蛸ですが。悪いですか?」
黒々とした何本もの足を動かしながら、アズールはローズを睨み上げた。
『いや、ごめん。全然悪くないです』
ローズは勝手に、アズールの人魚姿を予想していた。予想と大きく違ったその姿に、驚いてしまったのだ。
「さぁ、こっちですよ。ついて来て下さい」
アズールに促され、ローズは移動をする前にフロンダーの方を見る。
「じゃあボクは行くよ、お姉さん、助けてくれてありがとう」
人懐こい笑顔を残して、彼はすいすいと泳いで行き、廊下の角で姿を消した。