第18章 穢れた海とマーメイド
「えぇ。彼の名前はフロンダー」
名前を聞いたローズは、改めて少年の方に視線を向ける。
「ねぇねぇそれより もう名前変えた?早く改名した方が良いよぉ?オレが優しくしてる間になぁ」
「い、嫌だよぉ!」
「ご覧のように、フロイドに会う度改名を迫られている可哀想な少年です。
どうやらフロイドは、自分の名前と彼の名前が似ているのが気に入らないようで」
フロンダーとフロイド。たしかに似てはいるが、それだけで相手に改名を迫るなど、相変わらず彼はやる事が無茶苦茶だ。
『可哀想だと思ってるなら、助けてあげなさいよジェイド!』
ローズは、追いかけっこをしているフロンダーとフロイドの間に、体を滑り込ませた。
『やめなさいフロイド、ワガママが過ぎるわよ』
「え〜?ワガママじゃないオレとかさぁ、もうオレじゃなくね?」
不服そうにするも、フロイドは少年を追いかけ回すのをやめた。
「ありがとう、優しいお姉さ、っ、けほ、こほ」
『大丈夫!?』
突然苦しそうに咳き込んだ少年の背中を、ローズはすぐにさすってやる。
「ん、げほ…っ、も、大丈夫…」
フロンダーは、柔らかそうな頬を持ち上げて 弱々しくも笑ってみせた。
ここは病院だ。院内にいるという事は、フロンダーもどこか体を患っているのかもしれない。ローズがそう考えるのは、至極当然の成り行きであった。