第17章 迫り来るオクトパス
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「お2人とも、起きて下さい。着きましたよ」
ジェイドの言葉で、自分が寝てしまっていたのだと気付いたローズ。
『ん…、』
いつの間にか、フロイドの肩に寄りかかって惰眠を貪っていたらしい。そしてそんな彼女の頭の上には、同じく眠りこけるフロイドの顔が乗っかっていた。
馬車の中に、既にアズールの姿は無い。おそらくはもう外に出ているのだろう。
「ん〜っ、よく寝たー…」
そういうフロイドだったが、まだまだ寝足り無さそうな様子。
ローズはそんな彼を横目に、ジェイドの手を取り馬車から出る。
『…わ、…』
彼女は息を飲んだ。まさに、言葉が出てこなかったのだ。
ローズはこの時、生まれて初めて海を目の当たりにしたのである。
キラキラと光る水面の青。どこからか押し寄せてくる白波。空と海の境界線は濃紺。
そのどの色もが、彼女の心に染み込んだ。
「おや、ローズさん 海は初めてですか?」
ジェイドは、美しさのあまり固まる彼女の背に声をかけた。ローズは、海に視線を奪われたままで返答する。
『…ええ。話や絵でしか知らなかった…。海って、こんなにも美しいのね…なんだか夢の世界みたい』
「………」
その言葉には何も返さず、彼は悲しげに目を伏せた。ジェイドの代わりと言わんばかりに、アズールが皮肉めいた言葉を送る。
「…ふっ。
“ こんなにも美しい ” “ 夢の世界 ” ? 貴女がこの海の本当の姿を見た後にも、そんなお気楽な言葉を口に出来るのか見ものですね」
彼の含みを持った言い方に、不穏な空気を感じたローズだったが。そんな仄暗い雰囲気をフロイドの明るい声が吹き飛ばす。
「わーい!海ちょう久しぶり〜!」