第17章 迫り来るオクトパス
リドルを森の家へと残し、ローズ達は馬車へと乗り込む。
『…きっと、帰ったらまた怒られるわね。それはもうガッツリと…』
「あっはは!べつにいいじゃーん。金魚ちゃん怒ったら真っ赤になっておもしれーから」
ちゃっかりとローズの隣の席を陣取ったフロイドが、憂鬱顔の彼女を笑い飛ばした。
そんな2人の会話に、前の席に座るアズールが割って入る。
「おや、ここまで無事に帰って来られる自信がおありなのですね」
その物言いはまるで。これから彼女に危害を加えると、予告しているようなものだった。
『…また、どうして貴方は、そういう言い方をするの?』
「と、言いますと?」
なんとも胡散臭い笑顔を浮かべるアズール。
『自分が嫌われるような、意地悪な言い方を選ぶのね。
まるで、自分の中に誰かが踏み込んで来ないように 牽制しているみたいに聞こえる』
これには、彼は何も答えない。
アズールは 自分では意識的にそうしているわけではなかったが。いまローズが言った事を受け、思い至るところがあったのかもしれない。
自分の “ 駒 ” である彼女に、まかり間違っても感情移入などしてしまえば。思うように盤上で駒を動かせなくなってしまうのではないか。
盤上で駒を切らなくてはいけない時、情が邪魔をして切り捨てられないなんて事になれば…。
アズールが、彼女にどう切り返そうか悩んでいる最中。ローズは言葉を続ける。
『それに、契約書の約款の中にあったでしょう。
私が問題解決に尽力している最中は、貴方達は私には手を出さないと』
フロイドは、隣であくびを一つ。
アズールは、彼女の言葉に目を見開いた。
「…これは、驚きました。
貴女は意外と、きちんと契約書に目を通してらしたんですね」
そう。それはたしかに契約書に記載されていた。
ローズが問題を解決する為に動いている間は、アズール達は彼女に危害を加える事は出来ないのだ。
『ふふっ、私だってちゃんとする時はちゃんとしているんだから』
「…成る程。だから、貴女は僕達に着いてくる気になったんですか」