第17章 迫り来るオクトパス
咄嗟の事で、ローズはギュっと目を瞑ってしまったのだが。リドルはその瞳でしかと見ていた。
繰り出した炎は、たしかに契約書に命中した筈なのに。直撃の瞬間眩い光を放ち、その衝撃を打ち消したのだ。従って、無傷のまま今もアズールの手の中にある。
「な…まさかこれは、キミのユニーク魔法…」
「お分りいただけたようで、なによりです」
アズールは、衝撃で壁際に吹き飛ばされていた。なんとか立ち上がり、ズレた眼鏡を定位置まで押し上げる。
「あは、すっ転んでんのダサ」
仲間の不幸を簡単に笑ってのけるフロイドをひと睨みして。アズールは手をパンパンと打ち鳴らす。
「さあ、分かって頂けたなら早く出立しましょう」
『出立って…どこへ?』
にっこりと微笑み答えるのは、ジェイド。
「 海 ですよ」
短い言葉だったが、すぐに理解した。
“ 海 ” そこに、彼等がローズに見せたいものがあるのだと。
「大丈夫だよ。何があっても、ボクがキミの側にいて守ってみせよう」
ローズに手を差し伸べるリドル。しかしそんな背後に、またしても彼らが忍び寄る。
後ろから、魔法薬を染み込ませた布を口に当てがった。驚きで目を見開くリドル。
「あ〜言い忘れてたけどぉ、金魚ちゃんはお留守番ね」
『!!リドル!』
眠るように瞳を閉じて、リドルは床へと崩れ落ちた。そんな彼にローズは駆け寄る。
「心配ご無用です。ただの睡眠薬ですから」
アズールはそう言うが、本当にリドルをここに置き去りにしても良いのか。ローズは一度真剣に考える。
そんな中、今度はジェイドが語りかける。
「おや、迷っているのですか?そうですか…。貴女の覚悟もその程度だったという事…残念です」
『……そんなわけないでしょ。行くわよ。行くに決まってる。
フロイド!リドルをベットに運んであげて!』
「はいは〜い」
フロイドは上機嫌でリドルの体を持ち上げた。
「…ジェイド貴方、あの人の扱いを随分と心得ていますね」助かります
「ふふ、それほどでも」