第17章 迫り来るオクトパス
『…契約?』
ローズは、目の前に差し出された 紙とペンを見下げて。アズールの言葉を復唱した。
「えぇ。その内容はシンプルです。
ディアソムニア城を襲撃するに至った経緯には、僕達が抱える “ ある問題 ” が大きく関わって来ます。
貴女には、ぜひともその問題を解決して欲しいんです。
もしも…それを解決して下さったのなら…。僕は、もうディアソムニア国、その他 全ての国々への侵略はしないとお約束致しましょう。
勿論、貴女の命を狙う事もしない。
どうでしょう?」
『……私が、その問題を解決出来なかった場合は?』
ローズは顔を上げ、目の前の男の瞳を見据える。その瞳の色からは、余裕しか垣間見る事が出来なかった。
「そうですね…。糸車のつむにでも、触れてもらいましょうかね」
それはすなわち…彼女に 死ねと言っているようなものだが。そう言われる事を、ローズはなんとなく予期していた。
ずっと我慢して耳を傾けていたリドルだったが、その無茶苦茶な契約内容についに声を上げる。
「ローズ!そんな契約は絶対に」
しかし、彼の言葉は最後まで紡がれる事はなかった。
フロイドとジェイドが リドルの口を塞いでしまったから。彼等は薄ら笑いを浮かべて、再びローズとアズールの方へ視線を向ける。
『その問題を私が解決するにあたって、貴方は 隠し事をしないで 全てを包み隠さず話してくれると誓える?』
「勿論」
『……条件がある』
「伺いましょう」
ローズは、ペンを持って言う。
『もし私がその問題を解決したあかつきには…貴方達は、マレウスに心からの謝罪をしなさい』
「…契約、成立ですね」
アズールは微笑み、契約書をゆっくりと彼女の方へと押し進める。
ローズは淀みのない手付きで、契約書の下部へ 自分の名前をサインした。