第17章 迫り来るオクトパス
しかし、彼とて王族や貴族の相手は慣れている。決してローズに遅れをとったり、密かに気を引き締め直したのを悟られる事もない。
「………」
(気取られてはいけない。少しでもこちらが怯んだ事を。交渉のコツは、常に自分が優位に立つこと…)
『それで…貴方はどうして、マレウス達のふりをして城を襲ったの?理由を聞かせて』
少しの間見つめ合った後、先に口を開いたのはローズだった。
彼女はずっと待っていたのだ。この質問をぶつける瞬間を。
「ああ、やはりそこまでもうご存知なのですね!それにしても、彼等には本当に酷な事をしました…!彼等の事を思えば 僕も心が痛いんです」
質問に全く答えようとしないアズールを、ローズは冷たい目で見据える。
そんな視線は見て見ぬふりをして、彼は考える。
何を話すべきか。何を話しても良いか。何を話してはいけないか。
「僕は、諸外国を手に入れる必要があります。そして、目を付けたのが貴国ディアソムニア。
しかし、それには貴女方 皇族が極めて邪魔です。さらに言えば、マレウス・ドラコニアも 僕の計画の上では邪魔にしかならない。
そこで考えたのです。両者には、潰し合って頂こうと」
以上が、アズールが考え抜いた末に出した “ 話しても良い事 ”
そして次が “ 話すべき事 ”
「…僕達にも、色々と事情があるんですよ。
しかし…それを全て話すには、こちらもそれ相応のリスクを負う事になるので 簡単には晒せません」
『…じゃあ、貴方はここに何をしに来たの』
ローズが言うと、アズールはニヤリと笑う。
そして、手持ちの鞄からある物を取り出した。
テーブルに置かれたのは、黄金色に輝く羊皮紙と 魚の骨を象ったペンシル。
「まぁ慌てないで。話は最後まで聞いて下さい。
お姫様、僕と契約を交わしませんか?」