第17章 迫り来るオクトパス
勿論、1人でに花瓶は倒れて割れたりしない。しかし、リドルやローズが触れて倒したわけでもない。
犯人は…、森の家の外にいた。
「…何をやっているのだろうか。僕は」
そう呟いたのは、マレウスだ。
彼はひっそりと 窓の外から2人の様子を見つめていた。
リドルとローズが何を話していたかまでは聞き取る術は無いが、艶めいた空気が2人を包んだ事くらいは容易に感じ取れた。
それを察した瞬間に、彼は自分でも気が付かない内にテーブルの上の一輪挿しを倒していた。そして思惑通り、見事に2人の間を引き裂く事に成功したのだった。
彼がこうして、ローズが目的でこの場に出向くのは 初めてではない。では、数ヶ月前か。一年前か。いや それも違う。
マレウスが彼女を見つめ始めて、約6年もの月日が流れようとしていた。
そう。彼はローズに呪いをかけたその直後から この場所を頻繁に訪れているのだ。
どうして自らが呪った相手を、こうして見守り続けているのか。その理由は…。
自分の行いを、激しく悔いていたから。
ドラゴンへと成り代わり、ローズに呪いをかけたあの日から…。彼が後悔の念に苛まれなかった日は、1日たりとも訪れてはいない。
大切な人を国王に傷付けられたとはいえ、自暴自棄に陥った自分を許さなかった。王族達に最も過大な苦痛を与える為だけに、ローズを利用してしまったのだ。
少し冷静になって考えれば、分かるはずだったのに。
ローズは、何も悪くないのだ。そんな彼女を、巻き込んでしまった。
一時の感情に振り回された、浅はかな自分にこそ 呪いの力が降り注げば良い。彼は、そんな考えに至るほど自分を責めた。