第17章 迫り来るオクトパス
『でも、私リドルに謝らないと…』
申し訳無さそうに目を伏せる。リドルはそんな彼女の様子を見て、薄く笑う。
「もう謝らなくていい。ボクはキミの騎士だからね。キミの意向には出来る限り従おう。
それに、ボクのいない所で無茶をされるよりはよほど」
『違うの、それも…そうなんだけど、私が謝りたい事は、もっと 他にもあって…』
恥ずかしそうに頬を赤らめ、視線を外し話している彼女を見て。リドルは彼女が何に対し謝罪しようとしているのか、予想を立ててみる。
自分の告白への返事が先延ばしになっている事。
もしくは、彼女が以前口にした “ 愛を確かめる行為 ” が未だ未遂である事。
おそらくは、その両方ではなかろうか。とリドルは考える。
「……ローズが謝る事じゃない。夢の国とやらに飛ばされたせいでバタバタしたから、仕方ないと思うけどね」
『でも…』
リドルが許容の言葉を口にするも、まだ伏し目がちなローズ。
「…それに、今はそれどころじゃない。さきにアズールの件から片付けない事には、ボクの気持ちなんて」
“ 後回しで構わない ” リドルはそう続けようとしたが、思わず言葉を止めてしまった。
テーブルの上に乗せた手の上に、ローズの手が優しく乗せられたから。驚いて言葉を飲み込んでしまったのだ。
『リドル…貴方の大切な気持ちに… “ なんて ” なんか言わないで。
リドルの心が、可哀想で…。私、悲しくなる』
ローズの瞳は、真っ直ぐにリドルを捉えている。
数年間、リドルはローズの隣に存在する。
そろそろ見慣れてきても良いはずの、彼女の艶のある目。しかしリドルはそれに一向に慣れる事はない。
いつだって、この美しい瞳に見つめられれば、たちまちに心音は高鳴ってしまうのだった。